第4回 記憶に残る知識をつくるには
https://gyazo.com/bb03d4d9d9776d51391f0ce1d558e287
1. 心理学における記憶の考え方
1-1. 記憶のモデル
感覚器官から情報を入れる場所
保持時間は数秒以内
感覚記憶のうち、注意を払われたものだけが、短期貯蔵庫に贈られる 保持時間は数十秒以内
https://gyazo.com/13bf79bc240c9c267ea8aa0f098a5e24
短期記憶の保持時間や容量については異なる見解を報告する研究もある 保持時間や容量に限界がある点では共通
長期間にわたって保持される
その容量にも限界はないと言われている
単純に繰り返す
新しい情報を付加する
別の形に変換する
どのような憶え方をしようかという方略の決定などが行われている
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1-2. 処理水準モデルと精緻化仮説
初期の2貯蔵モデルに合致しない実験結果が示されるようになった
短期記憶から長期記憶への移行には維持リハーサルが必要
しかし、回数と記憶の保持は関連しない
情報をどの水準で処理したかによって記憶の保持が決まる
「psychology」
10文字
pから始まる
発音がサイコロに似ている
-logy
学問の一種
サイコという映画があった
処理水準が深いほど記憶されやすい
処理水準モデルの批判
処理の深さを決定する客観的な指標がない
同じ処理水準でも記憶成績が異なる現象がある
処理水準モデルを補う
ある情報を憶えようとするときに関連する別の情報を付加すること
処理水準モデルが処理の深さだけに焦点をあてるのに対して
「psychology」の意味的処理
「-logy」 + 「サイコという映画があった」
記憶の理論について
記憶を説明するのにいくつかの考え方がある
それぞれが記憶のある部分のメカニズムをうまく説明できる
複雑な記憶という認知機能をすべて説明するには限界もある
2. 記憶研究と教科の学習
2-1. 教科の学習における記憶方略
井上, 2017は、教師が一度に多くの学習内容を子供達に教えても、一時的な保持ができないことを指摘している 一度に教える内容は精選されるべき
複数の作業を同時に課すようなことは避けなければならない
板書の内容をノートに書き写しながら話を聞くなど
教師が新しい情報を付加して子ども達が学習内容を意味的処理できるようにする
深さと広がり
意味性の低い学習内容に意味づけすること
e.g.
いい箱(1185)作ろう鎌倉幕府
$ \sqrt{5} \fallingdotseq \ 2.23600679富士山麓オウム鳴く
関連する情報をまとめて、整理して憶える方略
e.g. 「ブドウ・ネコ・トラック・メロン・ウマ・自動車・スイカ・キリン・自転車」の9項目を憶えてもらい、一定時間後に思い出して紙に書き出させる
書き出された紙には「ブドウ、メロン、スイカ、ウマ、ネコ、キリン、自動車、トラック、自転車」
こうした現象は記銘時にカテゴリーに分類して憶えていることを示唆する 情報を付加して憶えること
感情が伴う出来事はよく憶えている
一般に、感情化を自らが意図的に行うことは難しい
国語の物語文で登場人物に感情移入しながら読解すると内容をよくおぼえるといったこと
これらの記憶の方略は互いに背反的ではない
重複している
2-2. 2種類の知識
学校教育
事象や概念だけではない
本書では、長期記憶として保持されている情報を知識と呼ぶ 事象や概念に関する知識
命題形式で言語化できる知識
時や場所に関する情報を伴う出来事に関する記憶
一般には「憶えている」という感覚の記憶
個人の生育史上の出来事という特徴を強調した概念
言語、概念、概念間の関係などについての客観的知識の記憶
一般には「知っている」という感覚の記憶
認知技能や運動的技能に関する知識
言語化が困難
算数の筆算の仕方などは認知的技能に関わる
3. 憶えやすい記憶と憶えにくい記憶
3-1. 知識の構造化 ―社会科の例から―
高校までの日本史で学習した出来事を並び替える課題(4→2→1→3)
正答できた人とできなかった人の違い
この問題に正答できなかった人達は、それぞれを関係付けることなく個別の年代を語呂合わせで憶えていたという 正答できた人の多くは、古代土地制度の流れの中で、それぞれの歴史的事象を位置づける学習法をとっていた
有意味化
要諦は個々の学習内容を関係づけること
3-2. 知識の構造化 ―理科の例から―
高校生に「北緯30度以北の日本の上空10,000メートルほどにはある方向からの風が吹いている。それは東西南北のどちらからか」という問題を出したところ、自身を持って答えられたのは3分の1ほど
教科書では「日本列島は赤道と北極の中緯度帯に位置し、中緯度帯の上空には西から東に向かって偏西風が吹いている」旨の記述がある(岡村・藤嶋, 2017) 多くの生徒はこの文言をそのまま機械的に学習したために忘れてしまったのだろう
偏西風を日常の現象に関する知識と結びつけたら
「日本とアメリカの航空機の所要時間は偏西風が追い風になる往路よりも向かい風の復路が長い」
「台風は偏西風によって東側に移動するために北海道には上陸することは少ない」
https://gyazo.com/d2270c6c96e103d2869bac935a09505b
知識の構造化を図ることで、学習内容を憶えるのに何度も繰り返す必要はなくなるし、長期の保持も可能になる
知識の構造化は情報の付加という点で、精緻化の1つの形態とみることもできる https://gyazo.com/7647e14b00778ae7a4d72a034391dfa7
3-3. エピソード記憶と意味記憶
憶えようと思って憶えたわけでもないが、いつまでも保持される
一番古い記憶など
あたかも閃光で焼き付けられたように一度で記憶されて、長期に渡って保持され、鮮明に思い出すことができる重大な出来事についての記憶
なぜエピソード記憶は憶えようと思わなくても記憶され、長期の保持が可能なのか
リハーサル説
世の中で起こった重大な出来事(間接的なエピソード)はメディア等で繰り返し放送される
個人的な重大な出来事(直接的なエピソード)では折にふれて思い出す
ただし、両者は明確に分けられない性質をもつ
重大な出来事は感情を伴うし、思い出す機会も多い
3-4. 学習内容のエピソード記憶化
教科の学習内容は意味記憶の対象であり、必ずしも感情を伴わない
憶えにくく、忘れやすい
麻柄, 1999「私たちは半年前、宇宙空間のどこにいたのだろう。空に向かって指差してみよう。その場所はここからどのくらい離れているのだろう」 太陽の方向で、太陽までの距離の2倍が正解
こうして学んだ知識は単なる意味記憶としてではなく、感情を伴ったエピソード記憶として長く保持される
4. 記憶に関する2つの標語
4-1. 頭の中に日記をつくること ―エピソード記憶から―
頭の中に百科事典を作ろうとしてきたから、知識の記憶がうまくいかなかった
公転の学習
驚きとともに「公転」という現象を記憶する
家に帰って家族に話し始めたくなるような知識
これはまさに日記に書かれるような知識
自分の世界とは関係のない借り物の知識ではなく、自分との関わりをもった知識
4-2. 教科書は厚い方がいい―知識の構造化から―
情報を付加することは、憶える量としては増えている
一般に憶える量が増えれば、それだけ憶えにくくなると考えられている
しかし、ある知識と関連する知識が結びつき、構造化されることで、量は増えるが、むしろ覚えやすく何度も繰り返して憶えなくて済む
教科書の記述だけでは理解できない場合でも、参考書の詳しい記述や授業での教師の説明によって理解できたために容易に憶えられたという経験を持つ人も多いだろ